どうして日が沈まないのか。ゆっくりと頭を働かせればわかることでしょうが、白夜の太陽を眺めていると、ふとつぶやいてしまいます。

 夕食を済ませて時計を見ると8時を少し回ったところです。さて、ジャンパーを羽織っていつものように散歩に出かけましょう。

 いつまでも空に居座る太陽の朱色の斜光が、石造りの街並みや港、海岸線を浮かび上がらせます。一日で一番美しい時間です。

 ラーウイックのダウンタウンの南に、対岸のブレッセイ島を眺めながら歩ける海岸があります。断崖が続くこの岬には、静寂とともに凛とした空気がありました。岬と島の間を吹き抜けていく雲さえも、凛凛しく前を向いているように見えました。

 静寂に彩りを添えるのが海鳥の声です。

「ウンフウンフ」ホンケワタガモは喉の奥から悲しげな声を出しています。

 少しけたたましくピーピーなくのはミヤコドリ。

 フルマカモメは寡黙です。彼らが飛び立つと風景は動画になります。

 

 斜めに差し込む夕日が全ての影を長く伸ばします。

 私の足もとに、大きな人の影が被さってきます。影をたどると、大きな影のはずです、それは手をつないで寄り添う初老の夫婦でした。冷たい風が吹く日には一番暖かい方法でしょう。二人の姿の微笑ましさに、私の心も温かくなります。

 夫婦の影を踏まないように、私は歩調を緩めます。するとそれまで冷たかった風が優しく感じられました。私は少し急ぎすぎていたようです。

 さあ、夕刻の静けさによって中世に戻った街を抜け、港へ行きましょう。そこではいつものように、2人乗りの小さなヨットを操る少年たちが北の海を疾走していることでしょう、遠いバイキングの血に駆り立てられているかのように。