「♪白羊さんからお手紙つーいた、黒羊さんたら読まずに食べた、しーかたがないのでお手紙書ーいた、さっきのお手紙ご用事なあに♪」。うん?羊じゃなくて山羊だったかな?

 どこを見ても羊がいました。ちょうど羊たちの出産期のあとに島を訪れたので、たくさんの子羊が跳ね回っています。

 

 フェア島で野放しになっている羊はシェトランド種というもので、厳しい自然や起伏の多い環境に適応するために小さな体をしています。冬になると風速六十メートルを越えるというシェトランド名物の暴風雨「ゲール」にも耐え、一年中を外で暮らす姿は、家畜というより野生動物です。断崖を駆け上がり、ヒースや背の低い潅木の芽を食べ、時には海岸に流れ着いた海藻まで食べて命をつなぎます。

 黒い子羊と、茶色い子羊がこちらを見ています.私がゆっくり近づくと、白い母親羊のところへ跳ねて行き、母親の陰に隠れてまたこちらを眺めています。

 

 黒茶・赤茶・灰・白などいろんな色の毛が、島のいたる所に落ちていて、風になびいています。十色以上の毛の色と、自然に毛が抜け落ち生え変わることがシェトランド種の特徴です。セーター1着分の羊毛なら簡単に拾い集められそうです。そしてそれを毛糸に紡げば、染色することなく、多色つかいのセーターを編むことができます。

 

 シェトランドシープの毛はバサバサとしていて、一見ひどい粗毛です。しかしその実はとても良質な毛で、柔らかく弾力性に富み、ふわりと軽いという特質をもっています。

 シェトランド諸島よりもずっと穏やかで豊かな生活環境であるイギリス本島にシェトランドシープを持っていったことがあるそうです。でも、1年もしないうちにその毛質は悪くなりました。シェトランドの厳しい自然に耐えてきたからこそ、暖かく軽い毛を得ることができたのです。そしてその羊毛は、島の女性の手によってセーターとなり、島を吹き抜けていく冷風から人々を守ります。